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ごくごくたまに更新中。 気が多いのであちらこちらへ愛を叫んでいます。 今のブームは某刀剣ゲームの物騒な初期刀と横綱です。
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拍手に入れてた没原稿が見れなくなってるのでここに置いておく




空ノ、記憶

 


 戻れない……。
もう二度と戻れない。
お前の元には、還れない。

 

 

 


 カリリッ。
あらかじめ渡されていた錠剤を躊躇うように舌の上で転がしてから、意を決して歯を立てて噛み砕く。
表面の糖衣が剥がれ落ち、口の中に微かな痺れる感覚と共に、苦い薬物の味が広がる。
わずかに顔を顰めながらも、奥歯で細かく粉砕し、ゆっくりとその薬物を嚥下していく。
 『組織』の指示した作戦開始時間まで、あと十分ばかり。
それまでにこの薬物は全身に滲み渡り、彼を獣に変える。
胃の中を熱く灼くように薬物が溶けていくのを感じながら、もう一度この先の手順をおさらいする。
 とはいえ、彼に課せられた役目は極めて単純な事。
間もなく『組織』によって引き起こされる極地的な停電の隙を突いてすぐソコに見える邸に侵入、外部との連絡を取るための通信施設を破壊した上で、『組織』から与えられた任務を遂行する事。
それも外部に知られる隙を与えず、素早く迅速に。
そして与えられた任務も簡潔で、しかしこの上なく重い。

『邸内にいる裏切り者を始め、すべての者を皆殺しにせよ』

 その命令を反芻し、胸にチリ……と痛みが奔るのを感じながら、それでも―――逆らう事のできない現実を、自覚していた……。

 

 

 

 悲鳴が聞こえた。
銃声が響き、幾人もの人間が争う音。
初めは遠かったその気配は次第に近く、そして断末魔の悲鳴がひとつ響くたび、銃撃の音は減っていく。
「あ……なた……」
 幼い我が子を腕に抱いて、恐怖に怯えながら縋るような瞳を向けてくる年若い妻を「もうすぐ都市警察が駆け付ける筈だ」と宥めながら、男の心は絶望に支配されていた。
『組織』を裏切ると決めた時から、いずれ刺客が差し向けられる事は分かっていた。
だからこの私邸には軍隊上がりの者を中心とする腕の立つ護衛を数十人も集め、各種セキュリティーも万全に整えて、刺客の襲撃に備えていた。
どれだけの人数で来るのかは分からないが、一度に十人以上の刺客が差し向けられたとしても、都市警察の応援を待つまでの間は最低持ちこたえるだろうと思われていたのに。
 それがどうだろう。
一瞬の停電を起こした後、自家発電に切り替わるまでの三分間という短い時間で私邸内に入り込んだ刺客は、瞬く間に一騎当千の傭兵達を一人ずつ屠っていき、邸の一番奥のこの部屋にまで近付きつつある。
侵入時に通信設備を壊しておいたらしく、外部に連絡を取る手段は断たれており、町外れに立つこの邸の異変に気付いた周辺住民の誰かが都市警察に通報してくれている事を祈るばかりだ。
いや、それさえも刺客がここに到達するまでに間に合うかどうか。
 ああ、このような事になると分かっていたならば、いくら司法取引を持ちかけられたとはいえ、決して『組織』を裏切ったりなどしなかったものを……。
男は己の決断を今更のように悔やむ。
『組織』の力は知っているつもりだったが、心のどこかで侮っていたのかもしれない。
襲撃時、護衛達からの連絡で侵入した刺客は僅か一人と聞いた。
その刺客一人にまさかここまで、追い込まれるとは。
『組織』内部で極秘に行われているという人体実験で、おぞましい化け物を生み出さているという噂は聞いていたが、今襲撃してきている刺客というのももしかすると、その実験体の一人なのかもしれない。
 やがて、階下から響いていた断末魔の悲鳴と銃声とが……絶えた。
不穏で危険な静寂の中、妻の腕の中でぐずりだした幼子の泣き声だけが響く。
おそらく、邸内に配属しておいた他の護衛は死に絶えたのだろう。
残った護衛はこの室内に居る、長年に渡り仕えてくれている四人だけ。
まだ誰もこの邸の異変に、気付いてはいないのだろうか。
都市警察はいったい、いつになったらやってくるのか。
男の心をどうしようもない焦燥が過った。


 こつん、こつん。


 廊下から一人分の足音と共に不可思議な音が聞こえてきた。
靴音とは違う、だけど何者かが歩くのに合わせて、何か乾いた物同士がぶつかりあっているかのような。
護衛達は緊張した面持ちで、半数の二人は扉の側へ足音を殺して近寄り、残り二人は男とその妻子とを庇うように立つ。
妻は怯えた目で腕の中の子供をきつく抱き直し、男は護身用の銃を慣れない手で握り直す。
緊張で手に汗が滲む。
 やがて扉の前で音は止み、そしてドアノブに何者かが手を掛ける音。
その瞬間、ドアの側で待機していた二人の護衛は扉目掛けてマシンガンのトリガーを曳いた。
至近で連続発射された銃弾は、容易く木製のドアの表面に蜂の巣状の穴を幾つも穿ち、そして間違い無く、ドアの向こうの何者かに―――ヒットした。
響く、くぐもった悲鳴。
 常人ならとっくに絶命しているだろう数の銃弾が、肉に食い込む音が連続して響く。
扉の隙間からは鮮明な赤い液体が染み出し、床の上に無気味な絵画を描く。
それでも二人の護衛はトリガーを曳く手を緩めない。
何しろ相手は数十人の豪の者をこれほど短時間に、しかもわずか一人で倒した、正真正銘の化け物なのだ。
これまでに傭兵として幾つもの死線を潜ってきた筈の男達は、すぐそこにあるかつてない恐怖を前にいささか恐慌状態に陥っているのか、弾倉が空になるまで銃声を響かせ続ける。
 やがて男達の銃は弾丸を吐き出し切って、空回りする虚しい音が鳴る。
また奇妙な静寂が戻り、男達は殺ったかと安堵の息を吐き、そろそろと銃口を下ろす。
それに合わせるように、銃弾で完全に破壊された外開きのドアがかすかに軋みながら開き、そこに転がる無惨な一体の遺体の姿が彼らの目に飛び込んで来た。
「――――なに……っ!?」
男達は大きく目を見開き、慌てて確認の為に遺体の側へと駆け寄る。
 床の上に転がった遺体は容赦なく連続でぶち込まれた銃弾で頭は半分吹き飛び、全身の肉も引きちぎられ、肉の塊と言った方が正しいと思われるような、凄惨な有り様だった。
それでもボロ切れになりかけている服や、無事に残った血まみれの半分の顔で、それがこの邸で警備についていた傭兵の一人であると分かった。
この男が、今回の襲撃犯なのか?
―――いや、違う。
仮に初めから邸内に入り込んでいたとしても、これほどの短時間で邸内を制圧できるような、それほどの腕前の持ち主ではなかったと、男達は冷静に分析する。
 ならば何故、この男はこのような所で無惨な姿を晒している。
困惑しつつ、改めてその死体を眺め、口元に猿ぐつわのように、白い布を巻き付けられていた様子なのに気付く。
「気をつけろっ! ヤツはまだ……いるっっ!!」
 まだ肝心の襲撃犯は生きて、何処か近くに潜んでいる。
雇い主の側で警戒を呼び掛けるリーダー格の男の声に、廊下の遺体の側に立つ二人はほんの瞬間、室内へと振り返る。
その、刹那―――


 かつん


 乾いた音を立て、一つの人影が床へ降り立った。
ドアの上のわずかな桟の上に足を掛け、息を潜めていたらしい、その影。
先程まで気配すら感じなかった相手の、唐突な出現に男達は慌てて銃口を向ける。
が、彼らがトリガーに指を掛けるよりも、“彼”が腰の得物を引き抜く方が遥かに早かった。
 斬影すら残らない、斬撃。
すべてはそれで終る。
一人は首を一撃で、もう一人は右袈裟掛けに、刀の一振りで肉体を切断され、声も無く絶命する。
血飛沫を噴き上げながら崩れ落ちる男達を確認せず、“彼”はゆっくり室内へと振り返る。
 白い頬やその手を点々と返り血で赤黒く染めた、その人物の姿に一瞬拍子抜けする。
組織の刺客というには、あまりに若いその姿。
年齢はおそらく十代前半くらい、腕も体も鍛えられてはいるもののまだ少年期の未熟さを残し、その手の中の血まみれの刀があまりにそぐわない。
 しかし男達が惚けたのは一瞬の事。
青年が低く態勢を沈め、一気に距離を縮める構えであると判断すると、迷わず銃口を向け連続して発砲する。
だが、
「―――なっ!?」
引き金を引いた瞬間にはすでに、少年は男達の眼前にまで迫っていた。
常人では考えられないその移動速度に驚愕している暇もなく、少年はその刀を振りかざし。
「キャッ、キャアアアア―――ッッ!!」
 最後の護衛二人の体が一瞬にして血に塗れ、床に倒れる様に、女は腕の中の子供を庇うように抱きしめながら、甲高い悲鳴をあげる。
その声に、目の前で起こった惨劇を惚けたように見ていた男は正気に返り、妻子を背後に庇い、刺客の少年に震える手で銃口を向ける。
「く……来るなっっ!!」
「―――往生際が悪いぜ、総督閣下」
 呆れたように、初めて少年が口を開いた。
「今まで『組織』の為に、あんた、どれっくらいの人間を不幸にしてきた? 今さら足抜けしようなんざ、甘いんだよ……」
蔑むように冷淡な声で告げ、少年はゆっくり距離を詰めてくる。
血塗られた刀を手にしたその姿は、男の目にまるで死の使いのように映った。
絶望に支配されながら、それでも震える指を拳銃の引き金にかける。
「く……来るな――――っっ!!」

パンパンパーン。

連続して銃声が響く。
 だが、
「無理だよ」
あんたくらいじゃあ、おれは殺せねえ。
銃弾を刀身でことごとく防ぎ、少年は一気に男との距離を詰める。
そして男が銃を構え直す隙も与えず、その刀で心臓を一気に貫いた。
「ぎゃああああっっ!!」
「あっ、あなたっっ!?」
胸から血を吹き上げさせながら、男は床に倒れ伏した。
その体は痙攣するように動いていたが、やがて固く強張り動かなくなった。
 しばらく少年は死にゆく男の姿をじっと見下ろしていた。
その緋色に染まった瞳はぞっとするほど感情が希薄で。
そして次に少年が目を向けたのは、部屋の隅で我が子を抱きしめ悲鳴を噛み殺している女。
「来ない……来ないで……っ」
けれど、少年は無感情な瞳で血塗れた刀を手に足音も立てず、ゆっくりと彼女らの方へと歩み寄る。
泣き叫ぶ子供を覆い被さるように抱きかかえ、必死で女は哀願する。
「お願い……お願い……! この子だけはどうか……っ」
「―――悪いが」
 僅かに、瞳が揺らぐ。
「あんたに守るべき者があるように、おれにも守るべき者があるんだ」
躊躇いを断ち切るように目を伏せ、母子目掛けて刀を振り下ろした―――……。

 


 遠く、声が聞こえる。
『絶対っ、約束だぞ!』
あの日交わした“約束”を、今も忘れちゃあいない。
大切な大切な、“約束”だったから。
違えたくない“約束”だったから。
「―――ごめん」
 遠く、今更のように駆け付けた都市警察のサイレンの音を聞きながら、小さく呟く。
「おれはもう……お前との約束、守れそうにねえ……」
こんな血塗れた身体では、お前の元へは行かれない。
何もかも捨てて、いまさら逃げ出す事などできない。
誰よりも強くなる為に、大切な人を守る為に、人間(ヒト)である事を捨ててしまった。
こんなおれが、お前の元へなんか行ける筈がない。
「ごめん、ごめん……」
胸は軋むように痛むけれど、涙など出て来ない。
泣く資格なんて、もう無くしてしまった。
 恨んでくれていい。
薄情なヤツと罵ってくれていい。
おれの事など、忘れて欲しい。
おれなど忘れて、幸せになって欲しい。
それが今おれがお前に望む唯一の想い。
「ごめん、ルフィ……」
思い出すたび、身を切られるように痛くっても。
おれは決してお前を忘れないけれど……。

 


「あーあ、こりゃあひっでえなあ」
 凄絶な現場を眺め、赤髪の男は呆れた様子で肩を竦めた。
「犯人のヤツ、よくもまあこんだけ殺したもんだ。こいつはまさに皆殺しだなあ、おい」
「シャンクス」
僅かばかり後ろを歩いている黒髪の男が、抑えた声音で咎める。
「不謹慎だぞ、控えろ」
「だってよー、ベン」
ちらりと視線だけ、背後を振り返る。
口調とは異なり、その瞳には静かな怒りが宿されている。
「ふざけてでもいなけりゃあ、やってらんねえだろ」
 二人の歩く廊下の壁や床のあちこちに残る赤黒い染み。
遺体の内の幾つかは、いまだ鑑識が終わらない為に布もかけられず床に転がされたままだ。
そのすべては今夜、この屋敷で起こった惨劇の犠牲者達のなきがらだ。
「これで、何もかも振り出しって事だな」
 大きな溜め息をつき、シャンクスは自らの赤毛を乱暴に掻き毟る。
「あのおっさん堕して、ようやく突破口開けたってのによ……」
多くの時間と金と―――そして幾人もの犠牲を払って、あの男をこちら側に寝返る事を承知させたばかりだったのだ。
彼を突破口に、これから捜査に踏み込もうと思っていた所だったというのに。
 城塞都市・宝沙。
大陸の真珠と歌われるこの都市の上層部が、とある世界規模の犯罪組織と癒着しているというのは、公然の秘密となっている。
その両者の協力関係の元、密かに進行しているらしい企みを探り出し、喰い止める事―――……。
それが連邦政府より特別捜査官として派遣されたシャンクスに架せられた任務だった。





ーーーーーーーーーーーーーー
たぶん続きは書かないのでネタバレ。
基本はルゾロですがラストはくいな←ゾロの心中エンドな予定でした。
思いっきり死にネタです。
ルフィは組織が遺伝子操作で生み出した異能力を持つ子供で、ゾロは薬物投与と人体改造で強化された子供という感じ。
10才前後の時に二人は出逢いやはり同じ境遇の子供達と共に組織からの逃走を図りますが、追っ手に追いつかれそうになったため、ゾロだけ囮で残り離ればなれに。
その際に後で必ず追いかけると約束を交わしていて、ルフィはそれを信じて待っています。
が、ゾロにはルフィと知り合う以前に、くいなという少女と共に逃走を図った事があり、彼女を死なせてしまったという過去がありました。
その後、ルフィと知り合い彼と共に生きようと考えていたのですが、組織の追っ手から「くいなは生きている」と報され、組織の手駒になることを選びます。
(ルフィはシャンクスの元で捜査官補佐みたいになってる設定だったかな、忘れたすまん)
ここで一旦、ルフィとゾロの道は分かたれるのですが、お約束のように再会します。
なんだかんだいろいろ悩んでルフィの手を取ろうとしたりもするのですが、最終的にはラスボスとして復活したスーパーくいな様(としか書きようがない)と共に死ぬ事を選ぶみたいなラストを考えてました。
スーパーくいな様は色々と設定がえぐいのですが、説明するのがめんどいので内緒。
まあなんだ、ラスボスのスーパーくいな様との血みどろの死闘が書きたくって書き始めた話なのですが、力不足で力尽きました。

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