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診断メーカー「〇〇をしないと出られない部屋」の結果で出てきた、
「ルゾロは『手を繋いで踊らないと出られない部屋』に入ってしまいました。
120分以内に実行してください。」
と
「ルフィとゾロは『指を絡めて10分見つめ合わないと出られない部屋』に入ってしまいました。
10分以内に実行してください。」
というのが可愛かったので両方合わせて書いてみた。
実に〇年ぶりに書くルゾロSSは楽しかったです。
支部にも上げますが、いちおこっちにも。
どうした訳か気がつけば、どことも分からない見知らぬ小部屋にいることに気がついた。
視界に飛び込んだのは真っ白な壁に天井、そして無機質な鉄製の扉。
この場所がいつもの船の上ではないことは、すっかり慣れ親しんだ鮒揺れを感じない事でも明らかだ。
「どこだ、ココ??」
キョロキョロと見回すとすぐ近く、いつものように昼寝をしている己の剣士の姿があった。
「ゾロ!」
大好きで特別な彼の姿を見出しただけでルフィの心臓はぴょこんと飛び跳ねる。
しししと笑って彼の傍に膝行り寄って、真上から顔を覗き込み繰り返し名前を呼ぶ。
「ゾロ、ゾ―――――ロっ」
「………………」
「ゾロ、おいゾロってば」
けれど瞼は閉ざされたままで、健やかな寝息のみが返される。
彼が寝汚いのはいつものことなのだけど、自分の呼ぶ声に気付いてくれないのはやっぱり面白くはない。
むっと口をへの字に曲げ、眠る彼の両肩を掴んで大きく揺さぶる。
「お―――い、起きろってばゾロ!」
「―――……ん……」
「なあなあなあ、ゾロっ」
「……る、せ……」
「起きねえとちゅーすんぞ!」
「っるせえって言ってんだろっ、このクソボケ!!」
怒鳴り声と共に跳び起きたゾロは憤りのままにルフィの襟首を掴んだが、すぐに異変に気付いてぴたりと動きを止めた。
「――――ここは……どこだ?」
「ん-、分かんねえ」
「分かんねえって………」
ルフィから手を放し、刀が三本揃っている事を確認した上で周囲を見回す。
目に入るのはやはり白い壁と床と天井、そして扉。
「あの扉、もう調べたんか?」
「いいやまだだ。ゾロ見つけたから起こすのが先だろ」
まあそれはそうだ。
いかにも怪しい扉を見つけたらまずは先に周囲を確認するだろうし、そして仲間が居たならそちらに声をかけるだろう。
「ここがどこなんかは知らねえが」
「おう」
「この部屋、出ねえ事には始まらねえよな」
「そーだな」
ルフィが頷くのを確認し、それから親指で唯一の扉を指し示す。
「とりあえずはあの扉から出れねえか、調べてみようぜ」
結論から言えば、件の扉は開かなかった。
自他とも認める体力自慢の二人が押しても引いても駄目で、体当たりしてみてもビクともしなかった。
扉にも、さらには壁や天井目掛けてゾロの刀や闘気を纏ったルフィの拳で破壊を試みてみたが、岩や鋼をも砕き切り裂く筈の彼らの攻撃を持ってしても傷ひとつつけることが出来なかった。
「――――どういうことだ、こいつァ」
「おかしいぞ、ゾロ。本気でぶん殴ってんのに、さっきから手ェ痛くなるばっかだ」
己の刀もルフィの拳も歯が立たないとは、もしやなんらかの能力者が絡んでいるのだろうか。
さすがに険しい表情をして壁に触れてそれから軽く叩いてみるが、ざらりとしたなんら変哲も無い感触が伝わってくるばかりだ。
「そっち、なんかあっか?」
反対側の壁をペタペタ触っているルフィに問い掛けるが、首を横に振り「いやなんもねえ」と返された。
「どうするよ、ルフィ?次は天井でも―――っ!?」
どんっ、と。
突然の大きな縦揺れが襲った。
グラグラと激しく幾度も。
「ルフィっ!壁から離れろ!!」
叫んで自身も部屋中央へ逃れ、身を低くし更なる衝撃に備え身構える。
ちらりと視線の先、数歩ほど離れた所にルフィも同じく蹲っているのを確認し、安堵した。
これは敵の攻撃なのか、それとも地震の類いなのか。
正体不明の縦揺れはしかし、始まりと同様、唐突に終わった。
いったいなんだったんだ、と疑問に感じたがしかし「あっ」と小さな声が聞こえて、振り返る。
「どうした、ルフィ?」
「なんだ、アレ」
「――――っ!?」
先ほどまでは全面見渡す限り、白一色の壁に囲まれていた筈だった。
なのにどうして、今、ルフィの指差す先の壁面に黒々と、見逃す筈もないくらいにくっきりした字で数行に渡りなにやら文章が書かれている。
なにが書かれているのか目を懲らせば、一行目には指令、と二文字が書かれている。
そしてその次の行から記された、その指令というのは―――……。
「この部屋は指を絡めて10分間、見つめ合いながら踊らないと出られない部屋です。部屋を出たければ指令に従って2人で指を絡めて10分間踊ってください」
「はあ……?」
なんだそりゃあ、というのがその指令とやらを見ての感想だった。
指を絡めろだとか、見つめ合えだとか、さらには踊れだとかくだらなすぎるし訳が分からない。
「ホントにこんなんやって出られんのかよ」
「さあ」
ルフィも傍らで困惑したように首を傾げ、腕組みしている。
「よく分かんねえけど、踊ってみるか、ゾロ」
「踊れっていってもな……」
音楽もないのに、どうやって踊れっていうんだか。
ぼやいたその瞬間、ゾロとルフィの他にはいない空間に、軽やかな音楽が流れだした。
ちょっとした祭や下町の居酒屋で流れるような、明るく軽快な音色の素朴なポルカのリズムだ。
「――――至れり尽くせりだな、おい……」
どういう意図があるのか知らないが、そんなにおれ達を踊らせたいのか、それで誰か得でもするというのか。
ホントに訳分からない。
「どうするよ、おい」
「うーん、そうだなぁ」
ルフィはちょっとだけ考えてみる素振りをみせた。
本当にちょっとだけ。
「よし、踊ろうぜゾロ!」
「踊るんかよ」
あんな胡散臭い指令とやらに従って大丈夫なのか、少しくらい考えなくていいのか。
「いーじゃん、踊ってみてダメだったらまた考えようぜ」
「マジかよ」
「おう、それにどうせ海賊は歌って踊るもんなんだしさ」
にっこり笑って手を差し出され、ゾロは呆れまじりのため息を零す。
それでも他の手立ては見つからないし、とりあえずは馬鹿げた指令とやらにつきあうしかないだろう。
ルフィの手を取り立ち上がり、またもうひとつため息をついた。
さて踊るとしてもどうしたものか。
とりあえずルフィと向き合ってみるが、どうにも検討がつかない。
するともう片方の手もルフィに掴まれ、しかも交互に指を絡める形で組まれ、そういえばただ踊るだけでなく、“指を絡めて見つめ合って踊る”んだったかと思い出した。
「じゃ、踊るかゾロ」
「おいてめえ、踊ろうとか言ってっけど、この曲の振り付けとか分かんのかよ」
「や、知らねえ」
「――――おい!」
「いーんだ、そんなん適当で」
「ホント、無茶苦茶だなてめえ」
「しししっ」
そこからはもう、本当にどこまでも適当で無茶苦茶だった。
流れる音楽に合わせて、軽く飛び跳ねたりクルクル回ってみたり、指を絡め繋いだ手を上下動させてみたり外側へ広げてみたり戻したり。
近づいたり遠ざかってみたり、足踏みしたり、軽くギャロップを踏んだり。
踊りになってんのかな、コレと思ったりもしたが、向かい合うルフィが楽しそうに笑うからもうそれでいいような気がしてきた。
絡め合わせた指先に少し力を込め、見つめ返す眼差しを緩ませれば、ルフィはさらに嬉しそうに目を細めて、曲に合わせて即興で変な歌を唄いだす。
「サンジ~の、メシはうーまい~~、肉が食いたいー、大量のーに――くを~~」
「なんだよそれテメエ」
音階もリズムも歌詞も無茶苦茶なその歌に、思わずプハッと笑いが溢れた。
「メシだの、肉だの、テメエはホント食欲の権化だな」
他にないんかよと揶揄するように言えば、ルフィはあるぞと上機嫌に笑い続けて歌う。
「ゾーーロ、好き―――だぁー」
「――――おい」
「ゾロ――、ゾロ――ちゅーしたーい~~っっ」
「それはヤメろやっ、ボケ!!」
「なんで」
「つーかよ、歌えなんて条件ねえんだから必要ねえだろうが」
「歌っちゃダメとも書いてないんだから歌ってもいいじゃん」
ヤメろっての、いいや歌うなどと言いあいながら、それでも不思議と愉快な気分だ。
相変わらずお互い無茶苦茶なステップを踏みながら、ルフィは上機嫌でしししと笑う。
「なあゾロ」
「なんだ」
「俺はゾロが居たら、そんだけでワクワクして楽しい。ゾロが居てくれたら、そんだけで大丈夫だ」
指と指を絡めてしっかり手を繋いで、お互い目と目を合わせたまま、ワルツでもないのにクルクル回る。
リズムもテンポも無茶苦茶だけど、でも構わない。
どうせここには自分とルフィの二人しか居なくて誰も見ちゃいないのだ。
こんなに愉快なのだから、もうそれだけで十分じゃないか。
「だな、確かにてめえが居たら退屈だけはしそうにねえな」
その時、どこか遠くでガチャリと鍵の開く音がして―――……。
始まりも唐突なら、終わりもやはり唐突だった。
「――――へ?」
鳴り響いていた軽快な音楽が止み、代わりにザザンと波の音が聞こえてきた。
ぴたりと踊るのをやめて、しかし向かい合い指を絡めあったまま周囲を見回せば、そこは見慣れたサニー号の甲板の上にだった。
「なにしてんのよ、あんた達」
傍らからの声に振り向けば、唖然とした様子のナミの姿。
「てめえら、どっから湧いて出やがった?」
「というか、なんでお前ら両手恋人繋ぎしてんだよ……」
さらに視線を転じれば、サンジとウソップの姿。
他にもチョッパーやロビン、フランキーもブルックだって居る。
ゆっくりと再び互いへと視線を戻し目を合わせ、そして破顔する。
「――――出れた、みてぇだな」
「やった!戻れた!!」
一瞬手を離し、パンと勢いよく互いの両手を打ち鳴らしてまたルフィに強請られるまま再び指と指を絡めあい、手を繋ぐ。
「なんだよルフィ、まだ踊りてえのかよ」
「おう、めでてえ事があったら海賊は歌って踊るモンだからな!」
しししと笑って、それから二人を呆然と見やる仲間の方へ振り返る。
「おいブルック、踊りてえからなんか弾け! それからサンジ、めでてえから宴会すんのにメシ作ってくれよ!!」
「はああ―――っ!?」
「なんですかぁ、ソレは」
説明しろよと詰め寄るが、浮かれマックスの船長は聞いちゃいない。
「おいクソ剣士っ、どういう事なんかお前が説明しろよ!」
説明しろと言われても。
なんでか知らないが妙な場所にルフィと二人で閉じ込められて、指令とやらに従って踊ってたら戻って来れた―――なんて言われて信じて貰えるものか、どうか。
口が立つとも言いがたい己にはどう考えても荷が重いと説明を放棄する事にした。
「うちの船長が言い出した事、覆すと思うか?」
「――――っ、クソがっっ!!」
なにがなんだか分からぬまま、骸骨姿の音楽家がバイオリンを奏で、朗らかで陽気な曲が流れだす。
同じくなにがなんだか分かっちゃいないが、兎にも角にも宴会は楽しいものだと認識している船医がはしゃぎ声をあげ、船大工や狙撃手も椅子やら酒樽だのを甲板へと運んでいる。
守銭奴の航海士は不満そうではあったが、キッチンへ篭った料理人が作る料理の匂いが漂い始める頃にはもう諦めて学者と共に楽しむことを決めたようだ。
音楽も陽気な仲間も揃い、もうすぐ美味い食事もやってくる。
海賊なら歌って踊って楽しまなくちゃ、ダメだろう。
「メシ来る前にさ、踊ろうぜゾロ」
「おいおい、てめえ本当に踊るんかよ」
「おう、海賊だからな!」
「ったく、無茶苦茶なヤツだよな、てめえは」
深々と呆れた様子でため息をつきながら、それでもその手を拒む気にはなれない。
「しゃーないから付き合ってやるよ、海賊王」
君が居れば嬉しい。
君が居るだけで楽しい。
君が居てくれるならそれだけで………幸せ。