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続きは明晩にでも。
お正月まであと二日……上がるといい、それまでに……。
冷たく凍えていた我が心を暖めてくれたのは、貴女。
薄闇の中、流離うばかりの私に光を投げかけてくれたのは、貴女。
罪深いこの身が、それでも共に在りたいと望むのは貴女だけ。
神子……貴女だけがいつも、私を満たしてくれる。
「わあ……っ、雪!」
天から舞い降りる白い氷の花を軒先から差し出した手の平に受け止め、貴女は歓声をあげる。
朝から空模様があやしく、さらに大気もひどく冷え込んでいたから、いずれ降り出すだろうとは予測していたのだけれど……。
買い物の為に屋内へ入っている内に、降り出してしまったようだ。
あまり長居はするつもりはなかったので、二人とも傘など持参してはいない。
はたして此処からどうしたものだろうと、私はしばし考え込むが、貴女はお構いなしに軒先を飛び出していってしまうのだ。
「―――っ、神子っ!?」
慌てて呼び止めるけれど、貴女はクルリと振り返り、花のような笑顔を向け、
「これくらいなら平気ですよ。行きましょう、敦盛さん」
誘うように差し伸べられたその白い手に、私が抗える筈もない。
頷き返し、一歩、貴女の方へと歩み寄れば、その微笑みは鮮やかさを増し、私の目を奪う。
身の内から柔らかな光を放つかのように美しい貴女は、まるで夜空に輝くあの月のよう。
その輝きは時に私の胸に小さな痛みを与えるけれど。
だがそれは、なにやら甘美な痛みで。
貴女と共に在る至福と比すれば、ほんのかすかな痛みでしかなく。
この瞳が貴女の姿を求める気持ちを妨げる物にはなりえない。
ゆっくりと、共にある時を惜しむかのように家路へと歩いていれば、貴女のコートの肩にうっすらと雪が積もる。
それでも貴女は決して足取りを早めようとすることはなくて。
「雪、綺麗ですね」
手袋に包まれた手の平に舞い落ちる雪のひとひらを受け止め、貴女は笑っている。
吐き出される息は白く、寒風に晒された頬は赤らんでしまっているけれど、それでもひどく幸せそうに。
年越しの買い物帰りゆえその腕に大きな荷物を抱えていても、まるで苦にもならぬというように。
その眩しい笑顔に魅せられ、私は少しだけ目を逸らす。
時々、綺麗な貴女が眩しすぎて直視できなくなる時があるのを、貴女は気付いているだろうか?
そんな私の想いも知らぬ貴女は、夢見るような眼差しで降り続く雪を眺めていたけれど。
「でも、ちょっと残念……」
ぽつんと、不意にそう呟く。
「どうせ雪が降るならクリスマスの晩に降ってくれたなら、もっと良かったのに」
「クリスマスに……?どうして??」
台詞の意味を解せなくて、私が首を傾げ問い返せば、貴女の頬は寒さのためでなく赤く染まり。
「クリスマスの日に雪が降ると、ホワイト・クリスマスっていう特別な名前で呼ばれるんです。クリスマスも特別な日ですけど、ホワイト・クリスマスはもっと特別で……そのもっと特別な日を敦盛さんと一緒の時に迎えられたらいいなあって……」
はにかむように上目遣いで私を見上げ、たどたどしい口調で言いよどむその様は、まるでほんの幼い女童のようで。
剣を持てば凛々しい戦姫のように勇ましく、大の男さえ怯ませるほどの覇気を漲らせるのに、だけど時にこんな風に頼りない小さな少女の姿も垣間見せる。
まるで万華鏡のように様々な姿を見せるそんな貴女が、私にはなによりも貴く、そしていとおしくて。
私はわずかに笑み、「そうか」と頷き返す。
【つづく】