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ご覧になりたい方だけ、続きをどうぞ。
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はるか遠く時空を越えて……生まれ育った世界からこの地へとやって来たのは昨年の事だ。
神子の故郷を茶吉尼天から守るべく、戻れる当てもないまま、八葉の皆と共に。
そしてひとまずの安泰を得たのち、元の時空へ戻る術を見付けるまでの間は有川家にてお世話になる事となり。
クリスマスという、こちらの世界における祝祭を知ったのは、その折りの事で。
この世界の鎌倉へ突然出現した迷宮の謎の解明に追われつつも、皆と共にその祝祭を楽しんだ。
宴の最中、不足しそうだった物資の買い足しのために、私は神子と二人で一時、宴の席を離れた。
そうだ、あの夜もこんな風に重い荷を持ち寒風の中、二人並んで歩いたのだ。
そして貴女を誘ってささやかで……けれど暖かい想いを込めて飾り付けられたクリスマスツリーを眺めたのだった。
貴女はあの時、私が経正兄上を思い出して切ない想いをしているのではないかと憂えていたのだと、言っていたな。
今でも貴女はそれを時々、私に問う。
私が貴女に引き止められるまま、こちらへ残ってしまった事を悔やんでいるのではないかと。
兄上と二度と会えなくなってしまい、悲しんでいるのではないかと。
貴女はその美しい瞳を不安で揺らめかせ、私に問うのだ。
そんな貴女の優しさや暖かさに、私の心はいつも甘やかな想いで満たされるのだ。
「あっ、でもだからって、今年のクリスマスに不満があった訳じゃないんですよ!」
誰が咎め立てした訳でもないというのに、貴女は慌ててそう言い添えた。
「そりゃあ去年の、八葉の皆さんが揃っていた時ほど賑やかではなかったですけど、でも将臣くん達とは一緒だったし、譲くんの料理は美味しかったし!―――本当に譲くんってば料理、上手ですよね。どうしたらあんな風に作れるんでしょうね」
私って本当に料理とか下手だから……と少し口惜しげな声。
そんな貴女の姿が微笑ましくて、私は僅かに笑う。
だが、それを目敏く見咎めた貴女は、ムッと口をへの字に歪め。
「敦盛さんまで私のこと笑って!ひどいっ!!」
「あ……いや神子っ、私はそんなつもりでは……っ」
「言い訳しなくてもいいです!どうせ私はがさつで気ばっかり強いじゃじゃ馬でっ、女の子らしい事なんてちっともできやしないんだもの!!」
「神子!」
文句を言い散らし、先へ先へと早足で行ってしまう貴女の後を私は慌てて追う。
私の迂闊な態度のせいで貴女が誤解して、心傷ついてしまったのだとしたら……。
先ほどまで貴女が浮かべていた幸福そうな笑顔を思い出し、胸が痛んだ。
なんとしてもあの笑顔を再び取り戻したいと、強く願う。
その為にもまずは貴女の誤解をなんとしても解かなければと、私は前を行く貴女の背へと訴えかける。
「神子、貴女は私にとって誰よりも素晴らしい女性だ。貴女ほど思いやり深く優しく他人を労わる事のできる女性はいない。私は貴女の清らかな心にいつだって救われているのだ」
「―――でも私……料理とか全然できないし、ちっとも女らしくないし……」
「そんなことはない、神子。貴女は細やかな心配りのできるとても女性らしい人だ。それに……クリスマスに貴女が作ってくれたケーキは美味しかった」
「敦盛……さん……?」
足を止めた貴女が、肩越しに振り返る。
その、途方に暮れた子供みたいな瞳に、私は微笑み返し。
「譲殿に教わって作ったのだと貴女が言っていただろう?確かに見た目はあまり芳しい物ではなかったけれど、それでも貴女の暖かい心が籠もっていて、とても美味しかった」
本当は、この手を伸ばして貴女を抱きしめたいのだけれど……勇気がでない。
でも私はもう一度、貴女に微笑んで欲しくて。
その瞳を甘やかな幸福で満たして欲しくて。
そう思うのは貴女にだけだ、神子。
私が想う人は、貴女だけ。
「貴女がなんと言おうと、私にとっての貴女はこの目に映る貴女だけだ。暖かくて優しくて柔らかな心を持つ私にとって唯一の女性……それは貴女だ。私が心より愛しいと、共に在りたいと願うのは貴女だけなんだ―――……神子」
迷宮にて、再び茶吉尼天を倒した事で、鎌倉の陰陽の理が回復して我々は元の世界へ戻る事が可能となって、私も他の者と同様、この世界を去るつもりでいた。
戻る事を選んだならば、もう二度と神子に会う事はできなくなるのだと、知っていた。
八葉が守るべき神子としてだけでなく、私にとり唯一無二の女性である貴女との別れを思えば、魂が引き裂かれるかのように苦しかった。
ひどくつらく切なく、胸が締め付けられるように痛んだ。
本当は離れたくないのにと、強く強く思った。
だけれども、呪われし身の私などと共に在る事が貴女にとり良い事であるとは思えなかった。
清浄なる神子の魂を汚してあいまわぬよう、離れるべきだと思った。
貴女の真の幸せのためには、私など側に在ってはならぬのだと。
だが今、私は此処に居る。
故郷の地へと戻る事なく、神子の傍らに在る。
それは貴女が私を望んでくれたから。
躊躇う私の背中を、幼き日よりの友が押してくらたから。
そしてなにより……私の心が本当は貴女を強く欲していたから。
だから私は此処に在る。
貴女の傍らにこうして在る。
「敦盛さんっ、私も!」
勢いよく振り返った貴女は、私の方へと腕を伸ばしかけて……だけど両腕が荷によって塞がっている事に気付き、照れくさそうに笑って。
「私も敦盛さんが好きです。敦盛さんだから側に居て欲しいし、敦盛さんが居るから幸せな気持ちになれるんです」
「そうか」
ふわりと笑う貴女。
良かった、もう一度笑ってくれたな。
微笑む貴女はやはり、あの舞い落ちる白い雪よりもずっと清浄で美しいとそう思う。
「敦盛さん、好きです」
「私もだ、神子……」
美しく清らかな、私の……神子。
この世界で唯一無二な、貴女という存在を愛している。
貴女はクリスマスに雪が降れば良かったのにと言った。
ホワイトクリスマスというのは特別な日だから、私と共に過ごしてみたかったと。
だけど神子、そんな特別など私には必要ないのだ。
私にとり、貴女の存在こそが特別なのだから。
だから神子、クリスマスでなくとも、雪など降っていなくとも。
貴女が居るというだけで、毎日はいつだって特別な祝祭に他ならぬのだから。
「いきましょう、敦盛さん!」
差し伸べられた貴女の手。
その温もりを知る私が、その手を拒める訳がない。
「ああ、そうだな……」
私は貴女と共に在る事を選んだのだから。
故郷を捨て、己が血の連なる血族を捨て。
貴女と共に在る幸福を選んだ。
冬の寒風に凍えた蕾が、春の日差しを受け花開くように。
神子、春の女神のような貴女の微笑みで、凍えていた私の心は蘇ったのだ。
たとえ苦難に満ちていようとも、貴女の傍で生きたいと、そう願ったのだ。
「行こう、神子」
生きよう、貴女と共に。
共に在る至福は、何物にも変えがたいから。
だから貴女と過ごす特別な日々を生きていこう。
神子……誰よりも貴女を、愛しているから。
【おわり……】
口からざらめとか大量に吐きそうな代物になりました……。
2006年の終わりがこんなモノで締めくくりとは……思いもよりませんでしたよ……(苦笑)