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あああ、遙かで本命カプを一個も書いてないのに、こんなモノばかり書いててどうするよ……。
えーと、企画・第一弾の弁慶×詩紋ですが、出逢い篇のみで終わります。
こっから二人の恋は始まるのかもしれないなーという感じでほのぼのーっとした感じに仕上がったかと。。
いちお詩紋は現代帰還後、弁慶は運命の迷宮・帰還中くらいの設定のつもりです。
下書きは全部できてるのですが、とりあえず半分まで。
ご覧になりたい方はどうぞ。
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「映し鏡の君・前篇」
出会ったのは、偶然?
それとも、運命??
遅くなっちゃった、早く家へ帰らないと!
ぱたぱたと駆け足で、詩紋は家路を急いでいた。
冬休みだからと友人の家へ遊びに行ったまでは良かったのだけれど、気がついたらすっかり外は暗くなり、母親に告げた帰宅時間を過ぎてしまっていた。
お母さん、きっと心配してる……よね?
怒られちゃうかな、なんて謝れば許してもらえるだろ……。
そんな事を心の中で考えこんでいたせいだろうか。
前へ前へと進めていた足が不意に縺れ、詩紋は思い切り前のめりに転んでしまった。
「う……うわあっ!」
咄嗟に手はついたものの、小さな子供みたいに思い切り転んでしまい、詩紋は襲った痛みにしばし呻く。
アスファルトの上に勢いよく膝をついてしまったから、ジーンズの布の上からでは分からないけれど、きっとひどく擦りむいている。
淡い色の大きな詩紋の瞳には涙の雫が盛り上がり、今にも零れ落ちてしまいそうに潤む。
痛くて情けなくて、ベソをかいてしまいそうになるのを必死で堪えるけれど、膝はひどくじんじんと疼いて痛い。
小さくしゃくりあげ、手の甲で浮かんだ涙を拭おうとした、その時、
「君、大丈夫ですか?」
傍らから、柔らかな声。
驚いて振り返れば、静かな微笑を浮かべた青年が詩紋の傍らに片膝をついて、こちらを覗き込んできていた。
薄茶色の腰より長く伸ばした髪を背で縛った、線の細い優しげな面差し……。
初めて会った人の筈なのに何故だろう、何処かでこの顔を見た事があるような、そんな心地がしてならなくて。
つい呆然と見つめてしまっていたら、その人は少し困ったように首を傾げ。
「膝、擦りむいているのではありませんか?」
「あ……えっ、はい!」
問われて頷き返したとたん、忘れていた膝の痛みが蘇り、顔を顰めてしまった。
すると青年は薄く笑って、すっと詩紋へ手を差し伸べてきた。
「あの……?」
「こちらへおいでなさい。簡単な治療くらいならしてさしあげられますよ」
「えっと……貴方、お医者さま?」
「まあ……近い物ですかね……」
「??」
曖昧な青年の返答に、詩紋は目をぱちくりさせる。
お医者さまに近い物……?
もしかしてこの人はお医者さまになる勉強をしている途中の人なのかも。
不思議に思いながらも、その人の優しい微笑みを疑う気にはなれなくて。
「お願いしても……いいですか?」
おそるおそる訊くと、彼はにっこり笑って頷いてくれた。
詩紋もにっこり笑い返すと、差し伸べられた彼の手を取った。
すぐ近く公園まで青年に連れられて行った詩紋は、公園のベンチに座らされると、膝の所までジーンズの裾を捲り上げられた。
「ああ、傷はあまりひどくありませんね」
膝の傷を見、青年は眉根を寄せながら、冷静な声音で言った。
「だけど強く地面で打っているようですから、時間が経ったら少し腫れてくるかもしれない」
「腫れ……るんですか?」
「ええ、ですから家へ戻られた後、氷で冷やしておいた方がいいかもしれません。
アドバイスを告げながら、水道で濡らしてきた手拭で、傷の上をそっと拭う。
「―――っ!」
慎重に気を使ってくれているようなのは分かったが、それでもやはり傷口がひどく沁みて、詩紋は声を上げず呻いた。
「ああ、すみません。沁みましたか?」
「―――ちょっとだけ……」
「もう少しの間、我慢していてください。すぐに終わりますから」
小さい子供に言い諭すような柔らかな声に頷き返せば、彼はふんわりと笑ってくれる。
その優しげな微笑みを見、やはりこの人の顔を何処かで見た事があると、そんな風に感じた。
そう、僕はこの顔を知っている……。
だけど、何処で?
もしも本当に会った事があるのなら、忘れる筈はないと思う。
でもそれならば……この強く感じる概視感はなに?
傷口に油薬のようなものを塗り、新しい手拭いを上から巻いてくれている彼の顔を見据えながら考え込む。
手拭いの端をきつすぎない程度にきっちり縛り、一通り治療を終えた彼は顔を上げ、そして詩紋の視線に気付き、ふわりと目を細める。
「僕の顔がどうかしましたか?」
「え?」
「そんな風にじっと見られていると、なんだか照れてしまいますね」
「す……すみませんっ!」
ぶしつけな真似をしてしまったと、慌てて頭を下げると、彼は小さく声をたてて笑う。
「ああ、謝らないでください。別に怒っている訳ではないんですから」
「え、でも……」
「それよりも君がどうしてそんなに僕の顔を見ていたのか、その方がずっと気になります。よろしければ、理由を教えてくれませんか?」
「その……僕は……」
躊躇いがちに彼の顔を見れば、彼の瞳は優しい光を湛え、まっすぐ見つめている。
その眼差しに背中を押され、詩紋はおそるおそる口を開く。
「あの……たぶん、僕の気のせいだとは思うんですけど、あの、貴方は僕と何処かで会った事、ありませんか?」
「君と……ですか……?」
詩紋の言葉に、彼は驚いたように目を瞬かせ、それから小さく首を横に振る。
「いいえ、残念ながら君と会うのは、これが初めてだと思いますよ」
「そうですよね……すみません」
やはり馬鹿な事を訊くのではなかったと、詩紋は肩を落とす。
しかしその耳に、くすくすと涼やかに笑う彼の声が響き。
「ああ……ですが、君と会うのは初めてだけれど、確かに何処かで会った事があるような気がしますね」
彼の手が詩紋の頬に触れ、指で輪郭をなぞるように触れる。
「僕は君とよく似た顔を目にした事があるのかもしれません。そう……鏡の中で」
「鏡……?―――あっ!!」
【つづく】