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ホテルで衝動的に備え付けの便箋に殴り書きいたしたのですが、ソフト立ち上げてまで打ち込むのが今は面倒だったので、武魯愚にアップしようかなと。
ホントになんてこたあない小話です。
興味がある方は↓を見てくだされ。
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グラスに満ちた鮮やかな緑色の海の中、小さな気泡がいくつも浮かびあがり、はじけて消える。
その様をしばし見入っていたけれど、ふと視線を向かいに座る彼の方へと移す。
向かい合わせの席に小さな卓子を挟み、僅かに離れ座る彼。
赤い天鵞絨のソファにゆったり腰を沈め、珈琲碗を優雅に傾けている。
喫茶店の、ほの暗い照明の中、彼の白い顔も微妙な陰影を帯びて、この目に映る。
些か気取った風に珈琲碗を持つその指先もあいまって、彼をまるで己とは違う生き物であるかのように見せている。
二人の間にあるのは、物理的にでならほんのわずかな距離なのに。
手を伸ばせば届くくらい、ささやかな距離の筈なのに。
どうして彼を、ひどく遠い人のように感じてしまうのだろう?
少し切ない気持ちになり、あずさは唇をきゅうと噛み締める。
だが。
「---どうした?」
遠い場所をたゆたうように、空に向けられていた彼の瞳が、己の方へと向けられた。
不審そうに、気遣わしげに眇められていたけれど、しかしすぐ、維持の悪い顔でにやりと口端を吊り上げ。
「馬鹿が。どうせまた、くだらん瑣末ごとでも考えていたのだろう?」
その単純な頭で慣れん真似をするなと、声を立てて笑う。
揶揄いまじりのその台詞に、あずさは彼の顔をむっとして睨み返す。
「誰が馬鹿だよ!どうして先輩はそう口が悪いのさ!!」
「くくっ、馬鹿を馬鹿と言って何が悪い」
「も--っ、馬鹿って言うなよっっ!!」
眉を吊り上げ怒り顔で言い返しながら、だけど。
わずかばかりに離れて座る彼との距離を、ほんの少し前まではるか遠くのように感じていたけれど。
でもほら、今はこんなに近い。
手を伸ばせば届く距離にいるのだと、実感できる。
それが、とっても嬉しい。
彼の事が大好きだから、とっても嬉しい。
目の前の鮮やかな色のソーダー水。
はじける小さな泡のように、幸せな気持ちであずさは破顔した。
【おそまつ!】